むかしむかし、インドの小さな町に、とても人の良い床屋が住んでいた。

この床屋はとても貧乏だったため、おかみさんと二人でいつもお腹を空かせていた。でも、床屋は決してなまけ者ではない。それどころか、仕事はとても忙しく、お客さんは毎日、たくさんやって来たのだ。

けれども人の良い床屋は、お客さんが「暮らしが大変なのです」という話をすれば、つい「そうですか。それでは料金は、ただにしましょう」と、言ってしまうのだった。お客さんもそれにつけこんで、いつもお金がないような顔をして、毎回ただで頭をからせていたのだ。

それに腹を立てたおかみさんは、ある日とうとう、旦那さんをどなりつけた。「あんたって人は、よくも毎回毎回ただ働きをして。なんてお人よしなんだ。。そんな人はもう家にいなくてもけっこうだよ。今すぐここから出て行っておくれ。お金を稼いでこないなら、二度と家には入れないよ!」

そこで床屋は仕方なく、ハサミやカミソリや鏡などの商売道具をつめた袋をかつぎ、家を出て行った。そして床屋の仕事をしながら、あちこちの町と、歩き回った。けれども相変わらず、お客さんが「暮らしに困っているのです。」など言えば、つい料金をタダにしてしまうのだ。「はあ、これではいつまでたっても家には帰れないなあ。」床屋は、お腹を空かしながら旅を続けていた。

そんなある日の夕方のこと。床屋は大きな森の中で、太い枝をかさの様に広げた大きな木を見つけた。「今夜はこの木の下で休んでいこう。」床屋は木の下で、ごろりと横になった。

ところがこの大きな木は『くねくねお化け』という、怖いお化けのすみかだったのだ。そうとは知らない床屋は「どうしておれは、こんなに運が悪いんだろう…。なんとか、良い運が向いてこないかなあ。」などぼんやり考えているうちに、いつの間にか眠ってしまった。

そのいびきが木の上のくねくねお化けに聞こえた。「おや?この真夜中に、あんなもの凄い音を立てるのは何だ?」お化けは、そっと下をのぞいてみた。「おおっ、うまそうな人間が寝ているぞ。よし、久しぶりに人間を食べるとするか!」お化けは大喜びで舌なめずりをした。

そして、お化けの舌なめずりの音で目を覚ました床屋は、ふと上を見てびっくり。恐ろしいお化けが、ずるずると木のみきを滑り降り、たちまち床屋の前に立ったのだから。

そのお化けの大きな体は、まるで曲がりくねった木のよう。お化けは床屋に、おそろしい声で言った。「おい、人間。おどろいたか!俺はこの森に住んでいる、くねくねお化けさまだ。これからお前を食べてしまうから、覚悟しろ!」床屋はガタガタと震えながら、何とかお化けをだませないものかと考えた。

お化けが大きな口を開けて、床屋を飲み込もうとしたその時。「やあ、お前さんに会えて、ほんとに嬉しいよ!」と、床屋が言ったのだ。急に親しげに声をかけられたお化けは、目をぱちくりさせてたずねた。

「どうして、俺に会えたのが、そんなに嬉しいんだ?」

「ははは。こう見えても、わたしはお化け狩りの名人でね。お化けを捕まえようと思ってここで寝ているところへ、ちょうどお前がやって来たってわけなんだ。」
「お化け狩り名人?我々お化けが、そう簡単に捕まってたまるか!」
そこで床屋は持っていた袋を、お化けに見せて言うのだ。

「この中には、お前の仲間が押し込められているんだ。みんなこのわしが捕まえたやつだぞ!」
「うそつけ!」
「うそなもんか。さあ見せてやろう!」

そういって床屋は、大事そうに袋の中から鏡を取り出すとお化けの前に突き出した。

「さあ、ここにいるのが、お前の仲間だぞ!」

すると、鏡に映った『自分の姿』を捕まっているお化けと勘違いしたお化けは、恐ろしさに震え上がり、へなへなと座り込んでしまった。

「本当だ…!お化けが捕まっている。お願いだから、袋に入れるのだけは勘弁してくれ。そのかわり、お前の言う事は何でもきいてやるから!」
(しめたぞ。俺にもいよいよ運が向いてきたぞ)

床屋は大喜び。でもわざと考えるふりをして、「うーん…そこまで言うのなら、助けてやってもいい。だけども、それにはまず金貨を千枚持って来い。そして明日の晩までに、俺の家の庭に倉をたてて、その中に米の袋をぎっしり積み上げろ!」
「わかった。約束する。」

そうしてお化けは、逃げるようにしてどこかへ消えていった。

「はっはっはっ。お化けのやつ、うまくだまされよった。さて、お化けが戻って来るまでひと休みしようか。」と、木の下で横になろうとした時。

ごぉーーっ!

というものすごい音と一緒に、さっき出かけたお化けがもう帰って来たのだ。そしてお化けは、持ってきた大きな袋を床屋の前に置いて、「さあ、金貨がちょうど千枚だ!」と渡した。

袋を受け取った床屋は、もう一度念を押すのだ。「明日の晩は、倉をたてに来るんだぞ。約束を破ったら、この袋に押し込んでやるからな!」
「わかった。約束は必ず守る」
お化けは、震えながら消えてしまった。さっそく床屋は重い金貨の袋を背負って森を出て行くと、暗い夜の道を家に向かって帰って行った。

次の日の朝、ようやく家に着いた床屋を見たおかみさんは、涙を流して喜ぶのだ。とてもひどい事を言ったので、床屋がもう帰って来ないのではないかと、毎日心配しながら待っていたのだった。

床屋はさっそく、千枚の金貨をおかみさんに見せた。するとおかみさんは、うたがいぶかそうに言う。
「どうやって、こんなにたくさんの金貨を手に入れたんだい?まさか、人の物を泥棒したんじゃあ…?」
そこで床屋は、くねくねお化けのことを説明しても、おかみさんは信じてくれない。

「今夜になればわかることさ。そのかわり、何がおこっても、腰を抜かしたりするなよ?」

さていよいよその日の晩になると、突然庭の方で、ものすごい音がしたのだ。二人が窓からのぞいて見ると、くねくねお化けが、もう一人のもっと大きいお化けと一緒に、倉をたてていた。くねくねお化けは床屋に気がつくと、大声で言った。

「おれのおじさんが、手伝いに来てくれたんだ。」

二人のお化けは、たちまち庭のまん中に立派な倉を作りあげた。そして、どこからか山のように米の袋を背負ってくると、見る見るうちに、倉の中に高くつみ上げてしまったのだ。

「さあ。これで、お前との約束は全部果たしたぞ。約束通り、おれたちを捕まえないでくれよ!」くねくねお化けは、そう言うが早いか、おじさんのお化けと一緒にさーっと姿を消した。おかみさんは立派な倉を見上げて、ただもうびっくり。

「お化けに倉をたてさせるなんて、あんたも大したもんだねえ」

こうして貧乏な床屋は、このあたりで一番の大金持ちになったのだ。でもあいかわらず床屋の仕事を続けて、毎日忙しく働いている。だけど今度は、床屋が料金をただにしてやっても、おかみさんはにこにこ顔で怒ろうとはしなかったのだった。

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